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噛む健康・カラダづくり

あごは使って育てる!
~日々の「食べ方」が影響するあごの骨の成長について~

2023.10.26

歯並び・噛み合わせが悪くなる原因

  

 子どもの歯並びや咬み合わせについて、遺伝が影響することがありますが必ずしも親子で同じ状態になるとは限りません。

 歯並びや噛み合わせは遺伝的な要素だけでなく、日々の食生活や幼児期からの生活習慣、姿勢、指しゃぶり、頬づえ、舌の癖(舌を出すなど)のような生まれた後の習慣が影響します。その他にも、乳歯の虫歯の放置、外傷など何らかの理由で早くに乳歯を失い永久歯が生えるスペースの不足、成長発育期における口腔機能の異常が不正咬合の原因となっているケースもあるようです。

この、歯並びや上下の噛み合わせに異常があることを「不正咬合(ふせいこうごう)」といいます。

  

   

不正咬合があると

 

 虫歯(齲歯:うし)や歯周病になりやすい、前歯で咬み切れない、上下の歯の接触点数の減少による咀嚼能率低下、発音の不明瞭さや口呼吸などを引き起こしやすくなることも。その結果、食べやすいものばかり食べてしまい(偏食)栄養摂取バランスが乱れたり、感染症になりやすかったり、更なる全身の姿勢の崩れなどにつながることがあります。

 不正咬合には、歯があごに入りきらないでガチャガチャに生えている叢生(そうせい)、前歯が反対に咬んでいる反対咬合(はんたいこうごう)、前歯の咬み合わせが深い過蓋咬合(かがいこうごう)、上下の前歯がちょうど合わさっている切端咬合(せったんこうごう)、奥歯で咬んでも前歯が当たらない開咬(かいこう)、出っ歯と総称される上顎前突(じょうがくぜんとつ)などがあります。

  

  

  

不正咬合を予防するためにはあごの成長を促すことも大切

 

 昔の人はあごが発達し、親知らずも奥歯として正常に機能していました。歯は全部生えそろうと32本ですが、現代人は顎骨の大きさがどんどん小さくなってきていて、親知らずが生えるスペースがなく28本生えるのがやっとという人も増えてきています。

その一因として、食事の変化が挙げられています。

 現代の食事はあまり噛まずに飲みこめてしまうものが多く、また食事にかける時間も短くなってきていて、戦前に比べると咀嚼回数・食事にかける時間がおよそ半分に減少しているという研究報告があります。

あごは、よく噛むことで筋肉や骨が刺激され成長していきます。よく噛まないと十分にあごの骨が成長できず、歯の生えるスペースが不十分となり不正咬合を引き起こしやくなります。

きれいな歯並び・噛み合わせになるよう、よく噛む習慣をつけてあげましょう。
赤ちゃんはお母さんのおなかの中にいるときの指しゃぶりや、生まれてから母乳を吸うことで、噛むトレーニングを行っています。乳歯が生えそろう2歳〜3歳ころまでには噛むための準備ができ、5歳〜6歳になる頃には噛む力がついてきます。日頃の食事も姿勢や食べ方に気を付けながら、噛む力に合わせて徐々にトレーニングをしていきましょう。

  

「よく噛めるように!」と急に硬いものを噛んであごや歯を痛めてしまうことがあるので注意してください。

姿勢や食べ方以外にも、食事の際に意識してほしいことがあります。

 

   

●噛む食品を摂り入れる
普段の食事を楽しく食べながらトレーニングできるよう、食材の調理法を工夫してみましょう。

<よく噛むための調理法の一例>
・ 食材を少し大きめに切る
・ 生で食べても問題ない食材を少し歯ごたえが残るよう調理する

ハンバーグやチャーハン、餃子などに根菜を混ぜてみたりするなど、普段の食事にプラスαをするだけでも噛む回数を増やすことができます。

   

●食べ物をお茶や水で流しこまない
食べ物をよく噛まずに水分で流し込んでしまっては、噛む力はつきません。食後に飲む、しっかりと噛んで飲み込んでから飲むなど、水分で流し込まずに意識して噛む習慣をつけましょう。

  

●食事時の姿勢・食べ方に気を付ける
首・顔など食べる機能に関する筋肉は身体に支えられています。そのため、姿勢が歪んでしまうと唇・舌の動きや顎の位置に大きく影響します。猫背だったり、何かにもたれているような姿勢では、体が安定せず、食べる機能をうまく使えません。姿勢が歪まないように、また足がぶらぶらしないように椅子と机の高さを調整する、踏み台を置くなどの調整をしましょう。

   

 

 他にも、楽しく食事することも心がけましょう。「早く食べなさい!」「好き嫌いしないで食べなさい!」とピリピリした雰囲気の食卓では、下を向いたり横を向いたりしてしまうもの。ストレスが多いと消化吸収にも影響してしまいます。楽しく美味しく食事をしましょう。

 また、噛む力を鍛えようと一生懸命噛む練習だけをするのではなく、全身の状態にも気を付けましょう。前述したように、首・顔(頭部)は身体に支えられています。すべての筋肉はお互いに影響しあい支えあっています。姿勢を保てるよう、またバランスが整うように、ちょっとした運動をしたり階段を使うなど日頃から身体を動かし、身体をつくる心がけをしましょう。

お口の状態について、気になることがあれば歯科医師に相談する、またお子さんの場合であれば小児歯科専門医への受診をお勧めします。

   

   

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参考

●厚生労働省 平成17年および平成23年歯科疾患実態調査

●厚生労働省 e-ヘルスネット
歯・口腔の健康>歯並び>不正咬合の種類と実態
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-06-001.html(2023年10月26日利用)

●小児医療従事者として知っておきたい小児歯科のトピックス
木本茂成 
神奈川歯科大学大学院歯学研究科口腔統合医療学講座小児歯科学分野
小児保健研究77(2):90-97,2018
https://www.jschild.med-all.net/Contents/private/cx3child/2018/007702/002/0090-0097.pdf(2023年10月26日利用)

●硬性ガム咀嚼トレーニングが混合歯列期児童の咀嚼能力に及ぼす影響
日本矯正歯科学会,2008
根岸慎一 、林亮助、斎藤勝彦、葛西一貴
口本大学松戸歯学部歯科矯正 学講座 原著

●硬性ガム咀嚼トレーニングが混合歯列期児童の咀嚼運動および下顎第一大臼歯植立に及ぼす影響
根岸愼一, 大原輝久 , 林亮助, 斎藤勝彦 ,葛西一貴
日大口腔科学 35:142~148,2010.3.25
https://heartful-kyosei.com/wp-content/uploads/ronbun.pdf(2023年10月23日利用)

●Forceful mastication activates osteocytes and builds a stout jawbone
Masamu Inoue, Takehito Ono, Yoshitaka Kameo, Fumiyuki Sasaki, Takashi Ono, Taiji Adachi & Tomoki Nakashima
掲載誌:Scientific Reports、Published: 20 March 2019
https://www.nature.com/articles/s41598-019-40463-3(2023年10月23日利用)

噛む力が顎の骨を造り変える分子メカニズムを解明-顎の形や大きさの不調和に対する新しい歯科矯正治療法の開発に期待-
https://www.amed.go.jp/news/release_20190320.html(2023年10月23日利用)

●農林水産省 みんなの食育 世代・ライフスタイル別トピックス 中高年男性編 ゆっくり食べる
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/minna_navi/topics/topics4_02.html(2023年10月23日利用)